イトーキは、日本橋に構える本社「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」の一部を4年ぶりにリニューアルしました。働き方が大きく変化するなかで、オフィスに求められる役割も変わり続けています。だからこそ、オフィスは一度つくって終わりではなく、使われ方や働き方の変化に合わせて更新し続けることが重要です。今回のリニューアルでは、イトーキが蓄積してきたデータとデザインの知見をもとに、その考え方を空間へと落とし込みました。執行役員でワークスタイルデザイン本部・本部長の香山幸子と、クリエイティブディレクターの田幸宏崇に、その背景と狙いを聞きました。

成果につながるオフィスを追求する
近年、オフィスワーカーの出社回帰が進み、都心部を中心にオフィス需要が高まっています。賃料の高騰などを背景に、オフィスの拡張や移転は簡単ではありません。一方で、従業員のエンゲージメントや生産性の向上には、オフィスが果たす役割をあらためて見直す企業が増えています。
こうした背景のなか、イトーキは次世代のワークスタイルを構想し、実践・体験するためのクリエイティブハブとして、「ITOKI DESIGN HOUSE」を全国で展開してきました。今回リニューアルした「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」は、そのフラッグシップとなる拠点です。年間2万人を超える来訪者を迎えながら、自社の働き方をアップデートし、その知見を顧客へ還元する場でもあります。

「面積35%減」でもエンゲージメントが高まる理由
2021年から2026年にかけて、本社の在籍人数は850人から1,300人へと約1.5倍に増加しました。一方で、1人あたりのオフィス面積は約35%縮小し、出社率も40%から70%へと上昇しています。一般的には、人が増え、空間が狭くなれば、生産性は低下すると考えられます。しかし、イトーキの実証データは、その予想とは異なる結果を示しました。
「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」は、グローバルなオフィス評価指標「Leesman Survey」において、2年連続で最高レベルの認証「Leesman+ Excellent」を獲得(世界39位、Lmi73.9)。社内データでも、2025年時点のオフィス快適性は73.2pt(ベンチマーク63.3pt)、生産性実感は80.0pt(ベンチマーク66.4pt)と業界水準を大きく上回り、エンゲージメントも2021年の56.2%から82.0%へと飛躍的に向上しました。

高密度でありながら快適性と生産性を両立できた背景には、イトーキ独自のオフィスデータ分析があります。半年に一度実施する社員アンケートでは、体調や食事などのコンディション評価を含むアンケートに加え、位置情報や稼働データも収集・分析。「どのような環境で働く従業員が高いパフォーマンスを発揮しているのか」を可視化し、その知見を空間設計へと反映しています。
「ソロワーク」から「チームコワーク」へ
オフィスを改善するうえで重要なのは、アンケートで集まる「社員の要望」だけに依存しないことだと香山は言います。
「社員の要望だけを反映すると、個室のような、人とのコミュニケーションが生まれにくい席ばかりになってしまいます。その結果、組織全体のパフォーマンスが下がってしまいます。大切なのは、要望に応えることだけではなく、実際に生産性の向上につながっているかを検証しながら、オフィスを設計・改修していくことなのです」

今回リニューアルした12階フロアの大きな特徴は、個室型のソロ集中スペースを減らし、チームでの協働を促す「チームコワークゾーン」を増やしたことです。その背景について、香山はこう語ります。
「コロナ直後は、まず出社してもらうことが最優先でした。そのため、自宅のように一人で集中できるソロ集中スペースを多く設けました。しかし、働き方が変化するなかで、成果につながるのはチームで働く時間だということが、データから見えてきました。ソロ集中スペースに長時間いる人が、必ずしも高い生産性を発揮しているわけではありませんでした。そこで、チームコワークの場を増やし、自然と活気が生まれるオフィスへと舵を切りました」

さらに田幸は、今回のリニューアルについてこう語ります。
「2023年のリニューアルでは、『居心地の良いオフィス』をテーマにしていましたが、今回は『活気あふれる生産性』を見据えました。これまでの、仕事の内容や気分に合わせて従業員が『場所』や『時間』を自由に選ぶ働き方は、自立した個の生産性を高める一方で、チームの一体感が薄れやすいという課題があったのです」
偶発的な相乗効果を生む「相ブース」の実験
12階フロアには、20人以下のチーム単位で働く「チームコワークゾーン」を6カ所配置。その中では、業務上の接点が少ない2つのチームがあえて隣り合って働く「相ブース」という実験的な取り組みも始まっています。その狙いについて、香山はこう語ります。

「業務上の接点が少ない2つのチームが隣り合って働くことで、どんな相乗効果が生まれるのか。それも一つの実験です。蓄積されたデータをもとに、『どのチーム同士が近くで働くと生産性が高まるか』をAIが分析し、最適な組み合わせを提案する仕組みも目指しています」
一方、一人で集中したいときも、あえて個室ではなく、フロア中央の人通りが多いエリアを活用します。オフィスを仕切る「川」のように配置されたNIIのテーブル「CONNEXA」で、周囲の気配をほどよく感じながら働くことで、孤立を防ぎ、生産性を高める工夫が施されています。

「完成がゴールではない」チューンナップし続ける伴走型オフィス
一般的なオフィスは、移転やリニューアルが完成であり、その後は年数の経過とともに使い勝手が変化し、数年後に再び大規模な改修を行うケースが少なくありません。一方、イトーキが提案するのは、「完成」をゴールにせず、データをもとに少しずつチューンナップを重ねていくオフィス運用モデルです。その考え方について、田幸はこう語ります。
「レイアウト変更やゾーンの組み替えを前提としたコンセプトにしています。1年ほど運用し、『このスペースはもっと分割した方がいい』『チームの構成を変えた方が、生産性が高まる』とデータから見えてきたら、柔軟にアップデートしていきます。まずは自社で実践し、その知見を、お客様にも伴走型のアプローチとして提案していきます」

データ分析に基づいて空間を継続的に改善していく。その考え方について、香山はこう語ります。
「データとデザインは、セットで提案しています。データ分析の結果をもとに、『こう変えた方がいいですね』とお客様に寄り添い、一緒に考え、空間を少しずつアップデートしていく。例えば、このフロアも可動式のシェルフで緩やかに空間を仕切り、変化に対応しやすい構成にしています」
スペースを有効活用するカギはAIによる会議室システム
また、オフィスが高密度化する中で避けて通れないのが、効率のいい会議室の運用です。従来の予約システムでは、利用者が特定の場所を指定して予約するため、空予約やスペースの穴開きが発生し、稼働率が低下していました。利用者が「人数」と「時間」を入力するだけで、最適なゾーンやテーブルが自動的に割り振られることで空間運用を自動最適化していると香山は言います。
「場所で選んでしまうと隙間ができてしまいますが、人数と時間を入れると自動で会議室を割り振ってくれるので、稼働率が非常に高くなりました。これによって、自分で場所を選ぶ手間もなくなりました」

さらに今回、新たに開発した椅子やテーブルに設置された各種センサー「ITOKI OFFICE DEVICES」と AI「ITOKI OFFICE AI AGENTS」を活用し、さらなる空間運用の高度化をはかっています。

飲食可能エリアを「4倍」へ拡大
生産性を高めるためには、集中やコミュニケーションだけでなく、質の高いリフレッシュも欠かせません。イトーキでは社内データの分析から、「ランチを取る場所が不足していることが、ストレスや生産性の低下につながっている」という課題が見えてきました。そこで12階フロアでは、飲食可能なエリアを従来の4倍に拡大しています。

フロア内には、公園のようにゆったりと安らぎながら働けるスペースや、半屋外のような開放感を感じられるエリアを配置。「働く場所」と「食べる場所」にメリハリをつけながら、食事をきっかけに自然なコミュニケーションが生まれる環境を整えたと、香山は語ります。
「単に『食事をする』ということ以上に、『食を通じたコミュニケーションを取れる環境』を大事にしています。社内イベントやチームの振り返りなど、自然と人が集まり、対話が生まれる場としても使いやすい空間設計を目指しました」

リニューアルされた「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」12階は、イトーキ自身が働く場で挑戦を重ね、データを蓄積し続ける実験の場です。そこで得られた知見や運用ノウハウ、可変性のあるプロダクトは、クライアントのオフィス課題を解決する高度なソリューションとして還元されていきます。オフィスは、完成して終わるものではなく、データをもとに育て続けるもの。時代とともに変わり続ける「働く」の未来が、「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」に体現されています。
Photo : OOKI JINGU、Takuma Hosoi
Text : Michiko Inoue
Edit : Takahiro Shibata(Kichi)