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ITOKI DESIGN HOUSE

JOURNAL

企業の記憶を、空間へ。「Econifa UPCYCLE」という発想

2026年5月に開催されたオフィス家具見本市「オルガテック東京2026」で、イトーキは「Econifa UPCYCLE(エコニファ アップサイクル)」を発表しました。企業活動のなかで生まれる未利用素材を家具へと生まれ変わらせ、その企業ならではのストーリーをオフィス空間に宿す新たな取り組みです。プロジェクトが生まれた背景や、展示ブースに込めた考えについて、商品開発本部 開発企画室の山本洋平、生産本部 素材研究室の澤田浩一、ワークスタイルデザイン本部 ワークスタイルデザインラボの西田大介が語ります。

「オルガテック東京2026」でのイトーキのブース
「オルガテック東京2026」でのイトーキのブース。オルガテックは、ドイツのケルンで開催されている世界最大規模のオフィス家具・ワークプレイスの国際専門展示会「オルガテック」の日本版として開催されている展示会です。

Econifa UPCYCLEとは?

「Econifa(エコニファ)」は、2010年にスタートしたソリューションで、「日本の木材を活用して家具をつくる」という発想から生まれた取り組みです。間伐材や地域材を積極的に取り入れながら、国産木材の新たな可能性を広げてきました。

生産本部素材研究室の澤田浩一。
生産本部素材研究室の澤田浩一。

プロジェクトスタート当時から、「自分たちの地域の山で育った木を家具にしたい」という自治体や企業の声が数多く寄せられていました。その思想を現在へと発展させたのが、「Econifa UPCYCLE」です。対象は木材だけではありません。ものづくりの過程で生まれる未利用資源にも目を向け、企業自身が生み出した素材から家具をつくり、自らのオフィスで使う。その循環を通して、企業のものづくりや価値観、アイデンティティを空間として可視化する新しいアプローチです。なお、国産木材を活用する取り組みは、これまでどおり「Econifa WOOD」として展開しています。

イトーキのチェア工場の製造過程で発生する樹脂パージを再形成して作ったスツール。
イトーキのチェア工場の製造過程で発生する樹脂パージを再形成して作ったスツール。

「オルガテック東京2026」のブースに込められたデザイン

新作の家具が並ぶ、「オルガテック東京2026」の会場。そのなかで、イトーキのブースは一際、異彩を放っていました。会場に並ぶのは、木材や繊維、卵の殻など、ものづくりの現場で生まれた未利用素材の山。「山と池」をモチーフに構成された空間は、未利用素材そのものが持つ美しさや記憶を風景として立ち上げ、そこから自然に家具が生まれてきたかのようなストーリーを描き出しました。「Econifa UPCYCLE」の思想を空間そのもので表現したブース。そのデザインを担当した西田は、次のように語ります。

イトーキのブースは家具に生まれ変わる前の素材をあえて見せるデザインに。
イトーキのブースは家具に生まれ変わる前の素材をあえて見せるデザインに。

「一般的にはゴミとされている未利用材には、独特の魅力があると思っています。例えばセブン-イレブンのユニフォームの廃材の山には、かつて誰かが身に着けていたという記憶が残っています。それは、かけがえのない資源ともいえます。そうした資源で風景をつくり、その中から自然に家具が生まれてきたようなブースにしたいと考えました」

ブースでは、トヨタ自動車、セブン-イレブン・ジャパン、キユーピー、ユニリーバ、近江八幡市など、企業や自治体とともに取り組んだ「Econifa UPCYCLE」の事例も紹介されました。それぞれのプロジェクトには、その企業ならではの素材と物語があります。

トヨタ自動車の「もったいない素材」から生まれたスツール

トヨタ自動車では、1台のクルマをつくるのに3万点もの部品を使用しています。同社では、その過程で生まれる廃材や端材を「もったいない素材」と呼び、その活用を進める「TOYOYA UPCYCLE」という取り組みを行っています。

そのプロジェクトと「Econifa UPCYCLE」との連携によって生まれたのが、水素タンクの製造工程で発生する樹脂の「捨て打ち」を活用したスツールです。山本は、その素材についてこう説明します。

水素タンクの製造工程で発生する樹脂の「捨て打ち」を活用したスツール。
水素タンクの製造工程で発生する樹脂の「捨て打ち」を活用したスツール。

「樹脂を使った製品を製造する際には、品質を安定させるために、いわゆる『捨て打ち』という、やむを得ず廃棄される樹脂が生まれます。この樹脂は一般のものより強度の高い「エンプラ」と呼ばれる特殊なものです。トヨタの工場のみなさんが廃棄しないために、形をブロック状に整えることでその後の加工をしやすくしてくださったものです。」

完成したスツールは、現在トヨタ自動車本社事務本館のロビーに設置されています。製造工程で生まれた未利用材が、社員や来訪者を迎える家具へと生まれ変わり、企業のものづくりの姿勢を静かに伝えています。

セブン-イレブンの店舗ユニフォームから紡ぐストーリー

店舗で働く人々を長年支えてきたユニフォームが、新しいオフィスの家具へと生まれ変わる。セブン-イレブン・ジャパンの本社オフィスリニューアルでは、店舗で役目を終えた緑色のユニフォームを活用するアイデアを、イトーキが提案しました。

回収したポリエステル製のユニフォームを粉砕し、製造パートナーの協力のもとでボード化。さらに、家具として必要な強度を確保するため木材の芯材と組み合わせることで、スツールやテーブル天板、内装材、フロアサインへとアップサイクル。単に廃材を再利用するのではなく、店舗で働く人々の記憶や企業の歩みを、新しいオフィス空間へ受け継いでいく。その取り組みについて、山本は次のように振り返ります。

ブランドを想起させるカラーのボードは、家具だけでなくオフィス空間にも活用されています。
ブランドを想起させるカラーのボードは、家具だけでなくオフィス空間にも活用されています。

「セブン-イレブンはフランチャイズ経営のため、本社で働く社員にとって、店舗との距離を感じやすいという課題感がありました。そこで、店舗で役目を終えたユニフォームをオフィスで使い続けることで、店舗とのつながりを感じられる空間をつくれないかと考えました。印象的な緑色の家具がオフィスのさまざまな場所に配置され、空間に彩りが生まれただけでなく、店舗の存在を身近に感じられるきっかけにもなったと思います」

カモ井加工紙のマスキングテープ端材「ヘタ」を空間素材へ

衣服だけでなく紙も細かく断裁し、ボードにできるといいます。次に紹介するのは、「mt」ブランドなどで広く知られるマスキングテープのパイオニア、カモ井加工紙株式会社との取り組みです。マスキングテープの製造工程では、テープを一定の幅に裁断する際、どうしても両端に端材が残ります。この端材は「ヘタ」と呼ばれ、その量は年間1,000トン以上にものぼるといいます。

カモ井加工紙株式会社では、この「ヘタ」を活用できないかと、10年以上にわたりさまざまな企業と可能性を模索してきました。「Econifa UPCYCLE」では、この紙の端材を細かく粉砕した素材を入手してボード化し、空間を構成する新たな素材として活用しています。澤田は、このプロジェクトについて次のように語ります。

カモ井加工紙株式会社のマスキングテープは、プロの製作現場から趣味の文房具にまで、さまざまなシーンで欠かせない製品です。
カモ井加工紙株式会社のマスキングテープは、プロの製作現場から趣味の文房具にまで、さまざまなシーンで欠かせない製品です。

「マスキングテープの色の配合を調整することで、モザイクアートのような表情を持つボードをつくることができます。表面にはマスキングテープの廃材を使いながら、強度が求められる芯材にはウッドチップを用いるなど、異なる素材を使用する提案もしました。素材ごとの特性を生かしながら構成することで、個性的な表情と、什器として十分な強度の両立を実現しています」

キユーピーに欠かせない「卵の殻」が織りなす多様なテクスチャー

マヨネーズの製造過程で毎日生まれる、大量の卵の殻。キユーピーを象徴するこの素材も、「Econifa UPCYCLE」が着目した未利用資源の一つです。イトーキは約1年をかけて、卵の殻を配合した独自のボード材とテクスチャーの開発に挑みました。プロジェクトを担当した澤田によると、一口に卵の殻といっても、白だけでなく赤や黒などさまざまな色があり、その配合比率や粉砕の度合いを変えることで、まったく異なる表情が生まれたといいます。

粉砕した卵を透明な樹脂でコーティング。立体的な質感があるのも特徴のひとつ。
粉砕した卵を透明な樹脂でコーティング。立体的な質感があるのも特徴のひとつ。

「約1年をかけて、卵の殻を使ったテクスチャーを5種類ほど開発しました。卵の殻には白だけでなく、赤や黒などさまざまな色があります。その配合を調整しながら理想の表情を探っていく作業は難しさもありましたが、とても楽しいプロセスでした」

なぜ今、企業にとってアップサイクルが必要なのか?

「Econifa UPCYCLE」で扱ってきた素材は、ここで紹介した以外にも、コーヒーチェーンから出るコーヒーかすや、琵琶湖のヨシ(葦)など実に多種多様です。そこには共通して、企業や地域ならではのストーリーが息づいています。では、なぜ今、多くの企業がこうしたアップサイクルに取り組むのでしょうか。山本は、その背景にオフィスの役割の変化があると話します。

「コロナ禍以降、オフィスへの回帰が進み、オフィスをリニューアルする企業が増えました。せっかく空間をつくるなら、自分たちらしさを表現したい、社員同士のつながりを深めたいという声も強くなっています。

その企業ならではの特有の素材をオフィスで使うことは、企業のアイデンティティやストーリーを空間として表現することにつながります。もちろんSDGsという側面もありますが、例えば見知らぬ土地の漁網を再利用した素材より、自分たちが関わってきた素材が、もう一度身近な場所へ戻ってくる。そんなストーリーの方が受け入れやすいですし、価値を感じるのではないでしょうか」

ブースのデザインを担当した西田大介。会期中にはトークイベントも行われ、山本、澤田、西田とトヨタ自動車の担当者も登壇しました。
ブースのデザインを担当した西田大介。会期中にはトークイベントも行われ、山本、澤田、西田とトヨタ自動車の担当者も登壇しました。

さらに西田は、ものづくりに対する自身の考えをこう語ります。

「人口が増えれば増えるほど、ゴミも増えていくでしょう。それに対して、大きな解決策ではなくても、楽しみながらクリエイションしていくことが大事なのかなと思います」

イトーキがオルガテック東京2026で提案した「Econifa UPCYCLE」は、単なるアップサイクルの取り組みではありません。企業活動のなかで生まれた素材を、家具や空間という新たなかたちへと循環させ、そこに企業のアイデンティティやストーリーを重ねていく試みです。

家具は、その循環を可視化する一つのメディアに過ぎません。これから、企業ごとの素材や記憶がどのような空間へと受け継がれていくのか。「Econifa UPCYCLE」が描く新しい循環のかたちは、まだ始まったばかりです。

Photo : OOKI JINGU、Takuma Hosoi
Text : Michiko Inoue
Edit : Takahiro Shibata(Kichi)